「ワールブルグ効果」とは Topics

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がん細胞とブドウ糖

 がん細胞がブドウ糖を多く取り込むことはよく知られています。がん細胞が数を増やしていくには、莫大なエネルギー(ATP)の産生と、細胞を構成する成分(核酸や細胞膜など)の合成が必要ですが、エネルギー産生と細胞構成成分の合成のおもな材料がブドウ糖なのです。

 実際、多くのがん細胞の表面(細胞膜)には、細胞内へのブドウ糖の取り込みを行う「ブドウ糖輸送体」という蛋白質の量が増えています。がんの検査法で「PET:陽電子放射断層撮影」というものがありますが、これは、フッ素の同位体で標識したブドウ糖を注射し、この薬剤ががん組織に集まるところを画像化することで、がんの有無や位置を調べるというものです。

 つまり、PETは、正常細胞に比べてブドウ糖の取り込みが非常に高いがん細胞の特性を利用した検査法というわけです。がん細胞がブドウ糖を多く取り込むことが最初に報告されたのは、1921年のことです。

 糖尿病のがん患者ががんを発症すると尿糖が減ることや、ブドウ糖の入った培養液にがん組織や正常組織を入れて培養する実験で、正常の筋肉組織や肝臓組織に比べて、がん組織ではブドウ糖の消費量が極めて高いことが報告されました。

 また、翌年の1922年には、がん組織には乳酸が大量に蓄積していることが報告されており、これは、がん細胞では「嫌気性解糖系」が亢進しているということを意味します。嫌気性解糖系は、乳酸菌がブドウ糖から乳酸を作り出す「乳酸発酵」と同じ反応です。

ワールブルグ効果とは

 1923年から、ドイツのオットー・ワールブルグ博士のグループが、「がん組織では、ミトコンドリアでの酸化的リン酸化が低下し、酸素がある状態でも嫌気性解糖系でのエネルギー産生が主体である」という現象について、一連の論文を発表しています。

 ミトコンドリアとは、赤血球以外のすべての細胞にある細胞小器官で、酸素を使ってATPを大量に生成する「細胞内のエネルギー産生装置」のようなものです。しかし、「がん細胞ではミトコンドリア内での酸素を使ったエネルギー産生が低下し、細胞質内で酸素を使わない嫌気性解糖系でエネルギーを産生している」という現象を、ワールブルグ博士が見つけたのです。

 このオットー・ワールブルグ博士は、「呼吸酵素」の発見で、1931年にノーベル生理学・医学賞を受賞したドイツの生化学者です。細胞生物学や生化学の領域で重大な基礎的発見を次々に成し遂げ、呼吸酵素以外の研究でも何度もノーベル賞候補になった偉大な科学者です。

 そんなワールブルグ博士が最も力を注いだのが、がん細胞のエネルギー代謝の研究であり、がん細胞の異常な増殖を解明するためには、エネルギー生成の反応系を研究しなければならないということから、呼吸酵素を発見したのです。

 そして、ワールブルグ博士のグループは、「がん細胞ではブドウ糖から最大の乳酸を作っていること」「がん細胞は酸素がない状態でもエネルギー産生できること」さらに前述の通り、「がん細胞は酸素が十分に存在する状態でも、酸素を使わない方法(嫌気性解糖系)でエネルギーを産生していること」を見つけています。

 現在では、この現象は「ワールブルグ効果」と呼ばれ、がん研究の重要なテーマの1つになっており、ワールブルグ効果を利用したがん治療法に注目が集まっているのです。

(「ブドウ糖を絶てばがん細胞は死滅する」福田一典 2013.2.20第1版 彩図社より引用)

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