「嫌気的代謝」と「好気的代謝」 Topics

ミトコンドリアのちから 瀬名英明 太田成男

「ミトコンドリアのちから」 瀬名英明 太田成男 P70

酸素を必要としない代謝と酸素を使う代謝

 実は私たちの人間の身体にも、酸素を必要としない代謝反応と、酸素を使う代謝反応の両方が備わっている。

 短距離走の直後は息苦しくなり、私たちは懸命に息をつぐ。酸素が欠乏したために身体の中で嫌気性の代謝が優位に立ち、筋肉が動かなくなる原因の乳酸がつくられているのである。

 しかし次第に全身へ酸素が行き渡り、呼吸も整ってくると、筋肉を再び動かせるようになる。好気性の反応が台頭して、乳酸は代謝されるようになるからだ。これがミトコンドリアで起こる一連の反応である。

エネルギーの代謝経路

 パスツールから始まった酸素呼吸と生命エネルギーの研究は、ATPがどのようなメカニズムで代謝されるかを解き明かす過程であったということができる。

 酸素は肺から血液中のヘモグロビンに取り込まれて体内を循環する。酸素が消費されるのと同時に、栄養素からつくられた二酸化炭素が放出され、エネルギーが発生する。20世紀の生化学が解明したヒトのエネルギー代謝経路を概観してみよう。私たちはどのうようにして食べたものをエネルギーに変換しているのか。(上図)

 私たちが食べたものは、胃酸や腸で細かく切り刻まれた後に吸収され、血液に乗って身体を巡り、最終的に肝臓へと運ばれて代謝を受ける。エネルギー源として使われやすいのが糖質の代表であるグルコースなので、ここではグルコースを例にとって説明しよう。

 グルコースブドウ糖とも呼ばれ、まさしくブドウに多く含まれており、ワインの原料となる糖分である。ご飯やパン、うどんなどに含まれるデンプンも、分解されるとグルコースになる。病院で点滴されるリンゲル液にもグルコースが含まれている。

解糖系とクエン酸回路

 グルコースが細胞の中に入ると、まず細胞質ゾルで数段階のステップを経てピルビン酸という化合物へ変換される。この一連の反応を「解糖系」と呼ぶ。1個のグルコースはここで2個のATPと2個のピルビン酸へ換わる。解糖系では酸素をいっさい必要とせず、二酸化炭素も放出されない。

 つまり酸素がなくても解糖系の反応を使うだけならATPを合成することができる。私たちの体は酸素がなくても短時間に限ってエネルギー合成できるようになっている。この解糖系の場合、エネルギー源となるのはグルコースなどの糖だけだ。脂質やアミノ酸は酸素なしではエネルギー源にならない。

 酸素がここで充分に供給されると、ピルビン酸の代謝物であるアセチルCoAが「クエン酸回路」「呼吸鎖」という代謝経路に乗って、二酸化炭素と水にまで分解されていく。 脂質やタンパク質もそれぞれの代謝経路でアセチルCoAになるから、やはりこの代謝経路を通ることになる。これが後半の過程で、代謝の場所は細胞質ゾルからミトコンドリアの内部へ移る。

 嫌気的条件下では、酸素がないために後半の代謝が進まず、ATPはわずか2個しか合成されない。しかし好気的条件下ではさらに36個ものATPがつくられる。つまり同じ1分子のグルコースでも、好気的条件下のほうがはるかに多くのATPができて、多くのエネルギーが体内で利用できる(酸化的リン酸化)

(「ミトコンドリアのちから」瀬名英明 太田成男 2007.9.1第1刷 新潮文庫より引用)

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