「手当て」の効果 Topics

マッサージ

肌触りと不快感の関係

 私たち、ベルベットやシルク素材などに触れると、うっとりしたり、恍惚とした気持ちになる。それは肌触りが快適な気分にさせるからである。研究によると、このような気持ち良さを決めるのは、触れるものの「柔らかさ」と「滑らかさ」という2つの物理的性質であることがわかっている。「ざらざら」「べとべと」するものは、皮膚を損傷させる危険があるため、長い進化の中で嫌われる感覚となったようだ。人に触れるときも同じである。赤ちゃんのすべすべしたやわ肌に触れると、気持ちよく感じるだろう。

気持ちよさを感じるスピード

 ただし、やみくもに触れても気持ち良さは感じない。気持ち良さを感じる触れ方の法則がある。気持ち良く感じるかどうかは、素材の物理的な性質だけで決まるものではない。触れるスピードが大切であることはほとんど知られていないが、実はそれが本質的な役割を担っている。英国の神経心理学者、グレグ・エシックたちは、3種類の素材(メッシュ、綿、ベルベット)を機械に装着し、対象者の顔と前腕に3つの異なる速さ(1秒に50cm、1秒に5cm、1秒に0.5cm)で撫でたときに、どの程度「気持ちいい」と感じるか評価してもらった。

 実験の結果わかったことは2つある。第一は、全体として顔と前腕を比べてみると、顔のほうが気持ちよく感じるということだ。第2は1秒に5cmほどの速度で撫でたときに、最も気持ちよく感じるということだ。そして続く研究によって、1秒に5cmの速度で触れるときに最も反応する神経線維が発見された。それは「C触覚線維」と名づけられている。

マッサージによる癒し効果のメカニズム

 このC線維こそ、マッサージによる心身の癒し効果をもたらす最大にメカニズムといえる。著者は人に触れる場合に、その速度を変えて効果を確かめてみた。すると、エシックの効果と同様に、1秒に5cmの速度で触れられた場合に最も気持ち良く感じると同時に、副交感神経の機能が高まりリラックス効果があることが確かめられた。逆に1秒に20cmの速度で触れた場合には交感神経が優位になり、覚醒度が高まることがわかった。触れる速度によって効果がまったく異なるのだ。

母親から舐められた感覚

 この速さとは何を意味しているのだろうか。人間を除く哺乳類の母親が出産したとき、最初に赤ん坊にしてやることは例外なく「舐める」ことだ。「舐める」ことによって赤ん坊の呼吸は安定し、内臓は働きを始める。その時の速さが、まさに1秒に10cm以内のゆっくりとした速さなのである。

「手当て」の効果

 ほとんどの哺乳類は、このようなゆっくりとした柔らかい刺激を特異的に感知できるC触覚線維を備えるようになり人間にも残っている。イヌやネコなどの動物が、穏やかにくつろいでいるとき、自分の前肢を舌で舐めていることがあるが、これはリラックスして気持ちいいだけでなく、ストレスを癒してホメオスタシス(恒常性保持機能)を回復させるためのセルフマッサージをしているのである。

 そして、脳に届くと自律神経システムと協働して身体の状態を一定に保つ重要な役割を果たす。だから、マッサージのように人に直接的に触れられると、その刺激が脳に届いて、自律神経やホルモンのバランスを回復させる力、すなわち自然治癒力を高める効果があるわけだ。

(「手の治癒力」山口 創 2012.5.8発行 草思社より編集引用)

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