さまよう心は不幸の源泉 Topics

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 読者は今きっと、座ってこの本を開いていることだろう。だが、あなたの頭の中は、今まさに読んでいる内容について考えているだろうか?何か違うことを考えているとしたら、それは楽しいことだろうか?不快なことだろうか?どちらでもないだろうか?そしてあなたは今、ハッピーだろうか?

 ハーバード大学の心理学者、マシュー・キリングワースとダニエル・ギルバードは、キリングワースの開発した「あなたの幸せを追いかけよう」というアイフォーンのアプリを利用して、数千人の人々に「今、どんな活動に従事しているか」「心は何をしているか」「どのくらい幸せを感じるか」などの質問をした。人々は、一日の中のランダムな時間帯にそれらの質問への回答を求められた。

 データが集まってくると、キリングワースとギルバードはあることを発見した。人々は一日の半分以上の時間を、その時にしているのと違うことを考えながら過ごしていたのだ。どんな活動をしているかは、ほとんど関係がなかった。いちばん心が集中できる活動はセックス、会話、運動だったが、それでも心がさまよい出す率は30%にもなった。「人間の心とは、さまようものなのだ」と二人は結論づけた。「人間の」というところを彼らは強調した。その瞬間に起きていない何かを考えられるのは、動物の中で、人間だけに備わった能力だ。言語があるおかげで私たち人間は、計画したり、反省したり、夢見たりすることができる。だが、この力は諸刃の剣でもある。

 アイフォーンを使った心の放浪調査からは、今している作業以外のことを考えているとき、人の幸福度は、作業に集中している場合より低くなることがわかった。キリングワースとギルバードはまた、「さまよう心は不幸」であることを確認した。とりわけ、否定的な考えを思い巡らせたり、「ここでないとこにいたい」と願ったりするネガティブなさまよう心は、次の瞬間の不幸につながりやすいという。

 私たちは共同研究のエリ・プーターマンと一緒に、250人近い、健康でストレス度の低い女性を対象に調査を行った。被験者の年齢層は、55歳から65歳。調査したのは、それぞれの心がさまよい出す度合いだ。私たちは次の二つの質問をして、被験者の「そのときの心の居場所」と「ネガティブな心のさまよい度」を評価した。

 「これまでの一週間で、そのときしている作業に完全に集中していたり没入したりできた瞬間はどのくらいありましたか?」

 「これまでの一週間で、今いる場所にいたくないと思ったり、いましている作業をしたくないと思ったりした瞬間は、どのくらいありましたか?」

 これらの質問のあと、女性たちのテロメアを計測した。自己申告による心のさまよい度がもっとも高かった女性たちは、200塩基対ほどのテロメアが短かった(こころのさまよい度は「現状への集中度の低さ」と「ここでない場所にいたいという願望の高さ」から定義した)。生活の中でどれくらいストレスを感じているかは、結果に関係していなかった。読者も、自分が「ここでないどこかにいたい」と感じていないかどうか、注意してみよう。もしそう思っていたとしたら、それは心の中に葛藤があるあらわれであり、不幸のもとにもなる。この種のネガティブな心のさまよいは、「マインドフル」(精神集中)な状態とは対極にある。世界各国で行われているマインドフルネスストレス低減法の創始者、ジョン・カバット・ジンはこう言っている。「別の何かが今起きていればと願うのをやめるのは、今ここにあるものに向き合う大切な一歩です」。

 マルチタスクによって自分の注意をばらばらに切り裂くことは、気づかぬうちに、定量だが有害なストレスを作り出すもとになる。ほとんどの人々は、自分の心が大半の時間がどこかにさまよい出すのを止められない。ある種の心のさまよいかたは、創造の源泉にすらなる。だが、過去をネガティブに思い返すばかりなら、おそらくあなたは悲しい気持ちになる。それは静まっていたストレスホルモンをわざわざ煽り立てる危険すらある。ネガティブな心のさまよいが、目に見えない葛藤の源泉になりうることは、徐々に明らかになってきている。

 現代に生きる私たちはみな、限りある注意力を総動員して、マルチタスクの作業をしたり、電子メールをチェックしたり、時間を有効に使おうとしたりしている。だが、いちばん有効な時間の使い方は、一度に一つのことしか行わず、意識を全てそこに投入することだと判明している。これは「ユニタスク」あるいは「フロー」と呼ばれ、一瞬一瞬をいちばん満足のいくように過ごせる方法だ。この方法を用いると、心を深く集中させられ、満ち足りた思いを味わうことができる。

 もちろん、時間に追われているなら、複数の仕事を同時に進めなければならない時もあるだろう。だが、作業の中身が何であれ、そしてそれが「フロー」だろうと高速で移り変わる様々な活動だろうと、極力気をそらさず、その瞬間に意識を完全に集中させるように、一日のうちのどこかで挑戦してみてほしい。

(「細胞から若返る!テロメア・エフェクト」エリザベス・ブラックバーン、エリッサ・エペル NHK出版より引用)

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