生体に「ゆらぎ」があるから自然環境は心地よい Topics


 なぜ、人は「ゆらぎ」を心地よいと感じるのでしょうか。それは、自然環境に存在する人の生体もつねにゆらいでいるからです。自然環境の「ゆらぎ」と人体の「ゆらぎ」がシンクロすることが心地よさをもたらしていると考えられます。自然界に一定な事象はありません。

 自然環境のあらゆる事象はつねに「ゆらぎ」を持っています。物理学は私の専門分野ではありませんが、素粒子のようなミクロの世界でも、あるいは宇宙のようなマクロの世界でも、「ゆらぎ」は共通に見受けられます。ひとの生体活動にも、「ゆらぎ」があります。まず、体の要となる脳と心臓を見てみましょう。

 脳波を計測すると、その曲線は毎回ずれています。心臓の拍動数である心拍数も、刻々と変化します。このことは、ヒトの体が「ゆらぎ」ながらコントロールされていることを示しています。自然環境に代表される「ゆらぎ」には、疲労回復効果があります。

 ストレスが多い環境では、自律神経のうち、緊張や興奮時に働く交感神経がつねに優位になっています。ところが、ヒトは「ゆらぎ」の環境に置かれると心地よさを感じ、交感神経に代わって心身を休息モードに切り替える副交感神経が優位になります。

 そのため、ストレスや疲労が軽減することがわかっています。オフィスや居住空間で快適と感じる室温や湿度で作業していても、それが長時間同じであると「ゆらぎ」がなくなり、ヒトは疲れやすく眠気を催しやすくなります。

 実際の生活においても私たちは疲れてくると、無意識のうちに「ゆらぎ」を求めます。一定に保たれた車内環境に「ゆらぎ」をとりいれ、リラックスして疲れを軽くしたいからです。また、教会などにあるステンドグラスは、太陽光に木漏れ日のような「ゆらぎ」を与える作用がありますが、そこには「ゆらぎ」で疲れを癒したいという先達の知恵が生きています。

 かつて、日本人は「ゆらぎ」を大切にする暮らしをしていました。国土の70%近くを森林が占める日本列島は四季の変化に富む気候に恵まれ、「ゆらぎ」に満ちています。日本家屋は木造で、小さな庭で自然を楽しみ、ふすまを多用することで風や光を巧みに取りいれる造りとなっており、年中行事で自然や四季の変化を楽しむ文化が根づいています。

 しかし、いまの日本人は過労死の危険性が社会問題になるほど、疲れが溜まる環境に生きています。「ゆらぎ」のない現代的ビルのオフィス空間で長時間働き、理想的な「ゆらぎ」を持つ日本家屋を捨てて自然とは隔絶された住宅に暮らす生活は、疲れを溜め込む一方になります。

(「すべての疲労は脳が原因」梶本 修身 2016.4.20 集英社新書より編集引用)

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