進化から見た嗜好品依存 Topics


 糖や脂肪のようにエネルギー源になるわけでもないのに、ヒトがついついはまってしまう嗜好品というものがある。代表的なものが、アルコールとタバコである。アルコールは高エネルギー源ではあるが、そのエネルギーを糖や脂質に変えて蓄積することがほとんどできない。

 つまり、飢餓に向いた栄養源とはいえないのだが、依存症になりアルコールを手放すことができなくなるヒトが世界中にたくさんいるのはなぜだろうか。多くの動物がアルコールに嗜好性を持つことが知られている。アルコールは糖が発酵して造られるもので、揮発性であり匂いがすみやかに拡散するため、アルコールの匂いは糖の存在を示すことになる。

 動物にとって糖は生きるために必須なものなので、糖があるところを発見するための能力としてアルコールに対する嗜好性が進化したと考えられる。果汁を餌とするショウジョウバエなど多くの昆虫だけではなく、スズメバチなど通常は肉食中心の動物でも糖分を求めてアルコールに誘引されることがわかっている。

 おそらくヒトの祖先も果汁などを発見するためにアルコールの匂いを利用していたと考えられ、それに対する嗜好性はもともとあったと思われる。加えて、アルコールには直接脳に作用して神経細胞の働きを抑え、大脳新皮質の活動を低下させる作用があり、開放感やストレスの解消感が得られる。

 そのような薬理作用が、依存を生み出す一因となったのであろう。もちろん過度の依存症は例外的な精神疾患と考えられるが、多くのヒトがアルコールを好むのはけっして病気ではなく、ヒトという動物の性質のひとつなのである。

 アルコール依存症は、お酒を造るという文化がなければ、けっして生まれなかった病気であると同時に、アルコールによらなければ解消されないようなストレスを抱える人を大量に生み出す複雑な現代社会が原因となった「複合的文明病」といえるかもしれない。

 タバコもアルコールと同じように、あるいはそれ以上に習慣性の強い嗜好品である。タバコの中にあるニコチンも、タバコという植物が害虫などに食べられることを阻止するために作っている有害物質で、文明を持ったヒト以外はタバコの葉を燃やして煙を吸うなどということはけっして行わない。

 ヒトの祖先はタバコが覚醒剤のように脳に対する薬理作用持つことを経験的に知ったのだろうが、なぜタバコ依存症になるかについての原因が遺伝子ータンパク質レベルで明らかになってみると、依存症という精神的な病と考えられる病気にも、はっきりこうした生物学的原因があることがわかる。

(「進化から見た病気 ダーウィン医学のすすめ」栃内 新 2009.1.20 講談社より編集引用)

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