金属アレルギーと「手湿疹」 Topics

歯科医院
 「主婦湿疹に悩んでいる」と言って、42歳の主婦が来院した。2年前から急に手湿疹がひどくなり、手にブツブツとした小さな水泡がたくさんできて、それがかゆくて仕方ないのだという。

 前に通っていた皮膚科でステロイドを塗るように指示され、2年以上塗り続けていたが、最近ではあまり効かなくなってきた。それを医師に伝えたら「強い薬にかえましょう」と言われて、だんだん不安になってきたため、私のクリニックに来たのだとか。

 彼女の手を見て、私はすぐに金属アレルギーだと思った。水泡が、手のひらや指の間を中心にできていたからだ。いわゆる主婦湿疹とは、毎日の炊事や洗濯で使う洗剤で手の皮膚のバリアが失われたために起きる湿疹で、この場合の発疹は、おもに洗剤にもっともよく触れる、利き手の親指や人差し指の先にできる。

 彼女の場合は、水泡が手のひらに集中しており、指先はきれいなものだった。問診と視診から、すぐに全身性金属アレルギーを疑った。口の中を見せてもらったら、予想どおり、金属製の詰め物がたくさん入っていた。

 彼女は、「でもこの歯は、10年も前に入れたんですよ?今までは特に何もなかったんです」と言った。彼女のように金属アレルギーを誤解している人は多いのだが、口の中に金属を入れてからアレルギーが発症するのには、10年以上という症例も決してまれではない。長い時間をかけて、少しづつ金属が溶け出し、体内に吸収されて徐々に金属アレルギーが起きていくのだ。

 私は、ひとしきり金属アレルギーの説明をし、こう言った。「金属を取れば治りますよ。10年かけて溜まったものなので、少し時間がかかるかもしれませんが」10数年前、私が開業した頃は、金属アレルギーを正しく理解している歯科医はほとんどいなかった。

 今でも「弱い粘膜には何もできなくて、遠く離れた手の皮膚に金属アレルギーが先に出るはずはない」とまったく相手にしてくれない歯科医もまれにいるのだが、幸い彼女の場合はスムーズで、すぐに歯の詰め物を非金属の詰め物やセラミックに取り替えることがことができた。

 金属アレルギーは、人によって症状が出現するまでにかかる時間は異なるが、基本的には原因を取り除けばどんどんよくなる。彼女の場合は、4ヶ月で完治した。 金属アレルギーは、原因を取り除きさえすれば、自分が金属アレルギーだったことを患者さん自身が忘れてしまうぐらい、何事もなかったかのように治るのだ。

 しかし、治療をせず放置していると、顔にブツブツとした湿疹が出たり、局所性の金属アレルギーも併発したりと、どんどん悪化する。過去に、「職業がソムリエなのに、ワインの味がわからなくなっつてしまい、仕事ができなくなった」と訴えてきた味覚障害の患者さんがいたが、彼も金属アレルギーが原因だった。口内の金属をすべて取り除いたら味覚が戻ってきたため、無事に仕事に復帰することができた。

 非金属の詰め物に替える場合、歯によっては保険適用外となるために、費用がかさむこともある。しかし、金属アレルギーの治療に精通した歯科医に相談すれば、保険と自費をうまく使い分けてきちんと治療してくれるところも増えてきたため、事前に歯科医に相談してから治療に入るのが良いだろう。

 病気になってから治すよりも、病気にならないようにする。まさに予防医学の考え方だ。

(「なぜ皮膚はかゆくなるのか」菊池 新 2014/10/16 PHP新書より引用)

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