風土食と腸内環境 Topics

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 先頃「サイエンス」という科学専門誌に掲載された論文によれば、日本人の消化管内には、海藻の成分を分解できる腸内細菌が存在するが、欧米人の腸内にはそんな菌はない。ちょっと考えてみれば、これは当然のことである。腸内細菌はその風土の食とともに私たちの消化管に定着し、時間をかけて風土に応じた共生関係を形成する。

 海藻をおいしく食べる私たちが、海藻の成分を分解できる能力を有した腸内細菌とともに暮らしていても何の不思議もない。ひょっとすると、腸内細菌は個人個人でも異なるコロニーを有しているかもしれない。いや、これはおそらくかなり確実なことだろう。個人の食習慣が、腸内細菌との共生関係を個別に育んでいるのである。

 よく海外に出て、お腹の調子が変になるということがある。それは必ずしも現地の食べ物の衛生状態が悪いということではないだろう。むしろ、その場所の食材と自分の腸内細菌との相性が悪いのだ。それが証拠に、少し長逗留すると徐々にお腹の調子は安定してくる。腸内細菌の動的平衡が適応したということである。

 あるいは極端な例は、抗生物質を服用したときである。抗生物質は、私たちが感染してしまった細菌類を制圧するために開発された薬剤、つまり細菌にとっての毒である。これを飲むと何が起きるか。それは身体の最前線に位置する腸内細菌がまず第一に抗生物質によってやられてしまうということである。

 抗生物質の副作用として必ず記載されていることは、下痢もしくは便秘が起きる可能性があるということである。消化管環境の守護神である腸内細菌のコロニーが乱されると、とたんに整腸作用が変調し、消化管は両極端に振れてしまうのである。

 抗生物質の服用をやめると、腸内細菌コロニーはまもなく平衡を取り戻し、私たちのお腹の調子も戻ることになる。そのような視点に立つと、風土に合ったものを食べる、という当たり前の食の知恵には、生物学的にも合理性があるといえるのである。

(「動的平衡2 生命は自由になれるのか」福岡 伸一 2011.12.7初版 木楽舎より引用)